後継者塾というテキストがある。これは会計事務所が中小企業の後継者についてお客様に教育をするときのテキストとするためある会計事務所の団体が作成したものである。
事務所でもこれを使って研修を始めてみた。
後継者の心構えの中にひとつ納得できないものがあった。
「先代社長を立て、分をわきまえる」というところである。そのときの例として、戦国時代の武田信玄の息子、勝頼は信玄が没した後、自分の能力を信用しない先代からの番頭を納得させるために無理な戦いを繰り返し、最後は長篠の戦いで織田・徳川連合軍に大敗し、武田家を滅亡させたということが書いてある。従って、先代社長を立て、分をわきまえ、謙虚に努力しましょうと書いてある。
物事には常に2つの面がある。武田家を滅亡させた織田信長はどうだったのであろうか。織田信長は親の番頭たちの意見を聞かず、従来からの戦い方と全く違う金で雇った兵隊という画期的な方法で勝った。父親とは全く別の生き方をしたのである。
言えることは「結果が全てである」ということである。
最近お客様のところで後継者の方が先代の社長と話し合って決めた経営改革、会社再生の方針に対して幹部が従わず、先代社長のところに幹部が泣きついてきていて改革ができないというふうな話を聞いた。
後継者は良い人であってはいけない。○○さんは良い人だと誰かが言うときには、「その意味は○○さんは私にとって良い人だ」という意味である。従業員から良い人だと思われているだけで会社がもつわけはない。私が知っている優秀な2代目は人々から、良い人と言われる人ではない。きつい人、厳しい人、社員を大事にしない人といわれている人だ。
また、その中で後継者の心構えの10番目に「社員とその家族の生活を守る」ということが書いてある。後継者が自社を経営していく中で第一優先として考えなければならないのは、社員とその家族の生活を守ることであると言っている。これは間違いではないが、正確でもない。優先順位を社員とその家族の生活を守るということにしてしまうと、往々にして社員を甘やかすことだと思われる。ところが、業績をあげる、社会の中で生きていくということは従業員を甘やかすことではない。従業員を厳しく指導し、働かせる。会社そのものをきちんと収益をあげていくことである。そうでなければ会社はもたない。
ある人の本を読んでいたら、創業者が作った組織も何十年か経つと硬直化していく、活力がなくなっていく。組織の硬直化、官僚化を呈するのだ。後継者は硬直化する組織を引き継ぎ、変えていかねばならない。決して良い人ではできない。