自分で生命保険会社の決算書を見てわからなかったというメモを書いて読み直してみて笑ってしまった。これは、お客様について自分が思っていることの逆の表現ではないか。つまり、生命保険会社の決算書を見て私が知りたかったことはこの会社に預けている私の保険は大丈夫であろうか、この会社は前より良くなっているのであろうかということであった。
これは、社長が会計事務所が作っている決算書を見て思っていることと同じことなのではないか。社長は恐らく利益や売上は最初から頭に入っている。売上は日々一生懸命頑張っているから。経費についても同じで日々数字を一生懸命小さくしようと思っているから。利益についても同じで会計事務所から利益がこうです、従って税金がいくらになりますとしつこく言われているから。税金を払うためとしつこく言われているから社長は知っている。だが、その本質はわかっていない。前より良くなったのかどうか。売上が増え、経費が減り、利益が増えたら、前よりと良くなったいうことはわかるだろう。
しかし、貸借対照表はどうだろうか。自己資本比率がどうこう言われても元々貸借対照表はウソの固まりです。会計数値、たとえば利益とか貸借対照表とかは 事実を認識するためにひとつの約束事で決めるしかない。例えば、土地は買った値段でのせる。値段が上がっているとか下がっているということは関係ない。一定のルールで書いている。ということはそのルールがわかっていなければ自己比率も何もない。よく時価ベースの貸借対照表を作ると債務超過になる会社がある。つまり土地の時価が大きく下がっているケースである。ところが、土地は買った値段でのせるということが現在の基本的ルールだから、特にそのルールを知らない社長にとっては貸借対照表はウソの固まりだということがわからない。
自分で言っていて極端にこういう風に結論づけてしまった。会社の社長は決算書などわからなくてもいい。会計事務所がちゃんと説明すればいい。「会計がわからないと経営がわからない」という言葉があります。確かにそのとおりですが、今益々会計は複雑化していっています。なぜならば、大会社がアメリカやヨーロッパで資金調達する(増資したり社債を発行したりしているから)ためにできるだけ世界中の会計を統一化しようという動きが出てきています。国際会計基準と言います。そして日本の会計基準もどんどん国際会計基準に合わせるように努力しています。それは大会社、即ち上場している会社と割り切ってしまえばいいのですが、今は大会社が使う会計のルールも中小企業が使う会計ルールも一つにすべきだというふうな時代の流れになっています。会計は常に真実は一つだというふうな感覚なのでしょう。
私の意見では、会計などは所詮一つの約束事ですから別に上場してない会社に使う会計のルールと上場した後に使うルールが違っていても構わない。即ち、その決算書を使う人の目的が違うのだから。
上場会社の決算書は誰が使うのか?株主です。それもその会社の経営とは直接関係のない株主さんです。中小企業の決算書は誰が使うか?税務署、銀行、それと会社の社長です(会社の社長が実質的に会社の大株主というケースが実務上でしょう)。しかも税務署が言っている会計のルールは、要は税金さえ払ってくれればどうだっていいと言っているに過ぎませんので、どんな会計を使うかは自由なはずです。銀行は金を貸せるかどうか見ています。銀行はプロです。本当の意味で会計数値を見て使っているのは会社の経営者です。会社を経営していくために会計数値を使う。
従って、そこでは目的が違うので会計のルールも違って構わないと私は思うのですが世の中の流れはそうなっていません。敢えてそこまで統一する必要があるのかな。
例えば会社の社長にとってはできるだけ時価で貸借対照表など示してもらった方がわかりやすいのでしょう。財産がいくらで借金が今いくらあるということがはっきりしますから。そして税法との違いは、つまりこれを売ったらこれだけ税金がかかるというような目安にするための税法の違いは別にすればいいのですが、残念ながらそうなってはいない。
ということは、その二つの違いに極めて敏感なはずの会計事務所が教えてやればいいじゃないかと思います。つまり会計のルールのような一般原則かつ例外規定の多いものを細かく社長が学ぶのではなく、学んで自分の会社に応用するのではなく、社長はおおよその会計の原則的なルールをいくつか知っていればよく、会計事務所がちゃんとフォローして説明してやればいい。そこに会計事務所の本質的な役割があるのではないかと生命保険会社の決算書を見ながら思い返したわけです。このことについてはもう少し自分の頭を整理したいと思います。