会計事務所は企業の経営者から何を求められているのか。
会計事務所は企業の経営者から何を求められているのか。企業が小さいとき、それは税務署に提出するための資料、消費税や法人税の申告書だったのでしょう。
そして、企業が大きくなりはじめると二番目に求められるのは計数、会社の損益計算書や貸借対照表ができるという会計制度の仕組み作りでしょう。そして経理制度が間違いなく動くための内部統制制度の導入でしょう。
三番目にある程度会社が儲かってきたら、節税対策というものが求められてくるようになります。
その次の段階はいったい何であろうか。
不正を防止するということがあります。私の経験からいくと、だいたい従業員が30~100人位の間で必ずお金の使い込みという問題が出てきます。なぜなら最初の段階は、できるだけコストを安く、経済的に能率良く経理をやっていきたい。つまり最小限の人手で仕事をさせたい。これは経営者の当たり前の望みです。すると、そこで色々な管理要素(要は人手)を入れずにやっていくという希望があります。そうするとお金を扱う人というのは、現金という常に誘惑されやすいものにさらされているわけです。誰かが再度チェックすると思えば我慢できることでも、誰もチェックされないということがわかると人によっては我慢できずに誰にもわからないと思ってついつい手をつけてしまうということがあります。例えば、売掛金の入金があったのになかったようにして自分のポケットに入れてしまう、雑収入が入ってきたのに入ってこなかったようにしておく等が基本的なパターンです。このようなことは、はっきりい言って非常に見つけにくい。日々の行為を会社内で毎日相互にチェックしていない限り、非常に見つけにくいものです。つまり社長の目が行き届かなくなる頃から不正の芽が出てくるというのが実情でしょう。そういう意味で、少なくとも重要な事項、現金・預金の残高、銀行預金通帳にあると帳簿に書いてある残高が実際銀行預金にあるのかというチェック等、基本的なところは少なくとも会計事務所が決算を組む中でチェックができるというのが四番目の役割ではないでしょうか。
では、ある程度自前で経理もできるようになり、問題なく順調に経営が進んでいる会社についてどういうようなニーズがあるのか、会計事務所は提供しなければならないのかということについて言うと、それは資金繰りであったり、財務の相談ができる会計事務所だろうと思います。
単に狭い範囲での資金繰りでなく、貸借対照表を見て長期的に会社はこういう方向に行くべきである、そのためには何をしていかなければならないのかという話です。あるいは、設備投資をすると財務状況は悪くなります。果たして本当に設備投資をしていいのかどうか、というよりも設備投資をすることによって社長の目に見えているプラスの事項以外にマイナスの事項、リスクがどの程度あるのかということを注意喚起するのが会計事務所の役割ではないでしょうか。それには、経営計画、資金繰り、財務に関する経営相談、節税対策に精通している会計事務所が求められているということになります。同業他社に比べてお客様の会社の何が強いのか、なぜ儲かっているのかという見方も必要になってきます。儲かっているとはよく言いますが、なぜ儲かっているのか(一般論)ということについて言えるというのは相当な会計事務所でないとできないというのが私の意見です。私の事務所は、そういうことができる事務所であろうと内心自負しております。
そして、最後に求められるのは、経営全般を相談できる会計事務所でしょうが、経営全般というと単に守りの世界の話だけでなく、攻めの世界(営業やマーケティング)の発想が重要になってきますから、そのあたり本当の意味では今のところできないと思います。私の事務所はたかだか二十数名の事務所です。300人、500人の社員を使っている会社の社長、というかそれだけの規模にまで会社を育てることができた社長(会社を育てるというのは営業やマーケティングに強いことを意味しています)に太刀打ちできるわけがないですよね。守りの世界、つまり、社長がやろうという世界でのリスクを考えることが私ぐらいの会計事務所ができることだろうと思っています。