健康保険料や厚生年金保険料の負担金、いわゆる社会保険料が極めて重い負担になっています。
社会保険料の本質は税金ということです。米国ではIRS(内国歳入庁と訳しますが、日本の国税庁に相当します)が扱っている税金は、所得税、法人税、相続税だけに限らずFICA Tax(社会保障税、日本の厚生年金保険料に相当します)及びUE Tax(失業保険税、日本の雇用保険料に相当します)になっています。米国には、社会保険労務士という制度がありませんので誰が税金のことを扱ってもいいのですが、具体的には公認会計士等がこの社会保険料を含めて取り扱っています。日本は縦割り行政ということで金融庁の監督下に公認会計士、国税庁の監督下に税理士、厚生労働省の監督下に社会保険労務士というふうに分かれています。しかし、学問の世界(財政学)では社会保険料のような負担も税金と同じように考えるという扱いになっています。そこで本来の専門分野ではありませんが、会社の経営について数値的な面・会計的な面からアドバイスしている私どもとしては、経営者の方に社会保険料の将来のリスクを知っていただきたいと思います。
今、現実に負担されている社会保険料率はどのようになっているかというと、わかりにくいと思いますがこのように考えて見てください。例えば、従業員さんに月額5,000円(年間5,000円×12ヶ月=60,000円)の昇給をする。また年間の賞与が4ヶ月分を2回としますと賞与だけで5,000円×4ヶ月×2回=40,000円、月給の昇給とあわせて計10万円の給与・賞与増とします。単に会社の人件費が年間10万円増えたと理解するとこれは間違いです。現実には、40歳以上の方(介護保険料が加算されます)の場合でいきますと給与・賞与を10万円増やしますとその13.609%、つまり13,609円会社負担の社会保険料等が課税されます。社会保険料の跳ね返りを考えて賞与あるいはベースアップ、人の採用を考えていく必要があります。
問題なのは単に社会保険料が13.6%と高いだけではありません。これが益々引き上げられていくということです。現在の段階で会社負担は13.609%が15.615%まで引き上げられることが法律ではっきりと決まっています。ところが、健康保険料や介護保険料の引き上げは行うということははっきりしていますが、何%まで引き上げていくのかということまではまだ決まっていません。ちなみに現在社会保険料の総額は32兆円、その所得税等の総額13兆円の税額を大きく上回っています。常に社会保険料のことを意識して経営していく必要があります。
今問題になっているのはパートの方々(正社員の労働時間の4分の3以下または正社員の出勤日数の4分の3以下)は、社会保険に加入させなくてもよいとなっていますが、これを2分の1以下にしたいというのが今の方向性です。
また、昭和12年以降生まれの社長や役員の方々は原則しっかり給与をとって働いている限り年金はもらえなくなるというルールができました。逆に、支払うべき厚生年金保険料は70歳までは支払わなくてはならないというルールになっています。
この方も月々の役員報酬が15万円以下になると年金がもらえる、あるいは役員ではなく顧問という形で顧問料を支払うと社会保険料自体も支払う必要がなくなるという制度になっています。要は、働ける人はいつまでも働いてくださいという非常に不合理な制度だと思います。
このような場合について、それぞれの対応策は社会保険労務士の方で研究されていらっしゃると聞いております。興味のある方は社会保険労務士に聞いてみて下さい。
尚、社会保険料の節約(脱税)について、ある研修会で聞いた事項を紹介してみます。
“ 年金制度の破綻が目に見えてきた今、国のとった政策は総報酬制度の導入、厚生年金保険料率の引き上げと経営者にとって負担が増加することばかりです。そんな「社会保険料を安くする方法」という研修に参加しました。
総報酬制度とは賞与からも給与と同じ保険料を徴収する制度です。業績好調であったため5000万円の決算賞与を出した。そうしたら翌月末に1200万円近い保険料の支払いが発生(会社負担とは別に従業員負担分を預かっているため会社負担の倍になる)、思いもよらない支払であったため一気に資金繰りが厳しくなったという笑うに笑えない話が紹介されていました。
その研修で出てきた事例を紹介します。
一番節約できるのは、脱法行為ですが「社会保険に加入しないこと」です。本来法人は強制加入なのですが、加入していない法人も結構あります。すでに社会保険に加入している法人は、その法人を解散して新たに法人を設立、新規法人では社会保険に加入しない。しかしこの方法は脱法行為ですから経営者の自己責任で行わなければなりません。(社労士さんに相談すれば間違いなくダメと言われます)しかし国民年金の約4割が未払であり何の罰も受けていないのに対し社会保険のみ罰を受けるというのは納得いかない気もします。現実には、社会保険から脱退し、別に社会保険料を払っていない会社に切り替わるということがあまりにも多く行われているため、今後社会保険庁は社会保険に加入すべきなのに加入していない会社を探し出すと言っています。しかもそのために民間に一部を下請けさせようというお金をかかるようなことを言っています。私が考えるにそんな馬鹿なことをせずに、国税庁に内密に捜査させれば一発でわかるのになと思いますが、これは省庁の縄張り争いの関係で難しいようです。
最初に危ない話から始まりましたがここからは社労士さんに相談されても大丈夫です。
まず「4、5,6月に支払う給与を減らす」ということです。この3ヶ月間の給与により7月1日現在の社員の年間の保険料が決まります(定時改定)。ということはこの3ヶ月間の残業・諸手当を減らせば1年間保険料が安いということです。
それから「従業員に退職してもらい、個人事業主として請負契約・業務委託として契約する」ということも有効です。簡単に言えば従業員一人一人に外注先になってもらうということです(消費税も節税になります)。
その他には「年収を変えずに給与・賞与の配分を変える方法」があります。例を挙げると月給400,000円の人は標準報酬月額が410,000(23等級)になります。この23等級は395,000円~425,000円までの人が該当し、この範囲内であれば保険料は変わりません。ということは400,000円の人は毎月の給与を25,000円ずつ増額して425,000円にして、その分賞与を300,000円(25,000円×12ヶ月)減らせば、年収、毎月の保険料は変わらずに賞与の保険料を下げることができます。
また、社会保険料は4、5,6月に支払われた給与によって1年間の保険料が決まることが原則ですが、給与の大幅増額、減額が3ヶ月間続いた場合(随時改定)も変更になります。月々の給与が3ヶ月間連続して大幅に増減した場合です。ということは1ヶ月のみ大幅に給与が増えても保険料は変わりません。つまり「冬の賞与を減らし、その分を特別手当として12月分の給与に加算」すれば保険料は安くなることになります。
最後に社会保険は強制加入のはずですが、加入するとき本当に保険料が払えるかどうか確認するため現況書を出さないといけません。会社は強制加入だから無理して加入しているのにあなたの会社は社会保険が払えますかと向こうが審査するのはおかしいのではないでしょうか。裏を返せば払えなければ加入しなくてもいいということでしょうか。
保険料の未納が話題になり、保険料徴収アップのため社会保険庁は新たに人を雇っています。しかし保険料を徴収する金額より人件費のほうが多いというまったく無駄なことをしています。リストラが浸透している一般社会とはかけ離れた、人の効率化を考えずに人を増やすことだけを考える、いわゆるお役所の典型的な例なのではないでしょうか。
また、社会保険の手続きは時間がかかります。1時間待ちは当たり前で悪いときは2~3時間待たされます。社労士さんが手続きに行けばすぐ終わるそうなので効率化を図ればもっと早く処理できるはずなのです。
悪いことばかり書きましたが、自分の会社(社会保険庁)の効率化を全く考えずにその負担を企業に押しつけているところに保険料を払うのは本当にばからしいという感情が広がっていくのは避けられないでしょう。そしたら保険料をなるべく少なくと思うのは当然のことです。
私は、このように一生懸命払う会社を探し出し、社会保険料を徴収しようとしていること自体、将来社会保険(厚生年金)の制度が破綻することの証拠だと思います。はっきりいえば、今社会保険料を一生懸命払っても将来もらえないということを言っているのが社会保険料の徴収強化だろうと思います。
常識で考えてみればわかります。今社会保険料を払うということがどういうことか。現在は社会保険料を払って今のお年寄り達に支払っている(昔、仕送りという言葉がありましたが、それを国が間に入って不効率なやり方でやっているわけです)。逆に、今保険料を払っていない人たちは将来もらえないという制度です。そして、今後ますます年金の財政は厳しくなると社会保険庁は宣伝しています。ということは、将来老人の数が増え、若い世代の数が減っていくという人口構成の動きがはっきりしている今の世の中において社会保険料を払わないということは、将来自分たちが年寄りの世代になっても年金を若い人達からもらわないよと宣言しているわけです。即ち、今の年寄りに送金はしないけれども孫子の負担にはならないよということを言っているわけです。
高齢化、少子化が進む現在、年金は払わないけれども、将来もらわないからねと言っている人にどうしても払えと国が言っているのは論理矛盾ですよね。
私は大学を卒業して会計士になったときに上場会社の監査に行き、退職金は将来絶対払えないな、国の年金制度はもたないなとすぐわかりました。今から20年以上前の話です。そのうち改革が行われるだろうと思っていましたが、本質的な改革は行われていません。ネズミ講は違法ですが、国がやっている厚生年金はネズミ講ではないのかな、日本の国というのは国に頼っては生きていけないなあとつくづく感じています。
今後年金保険料率が毎年改正になり今以上に社会保険料が経営の負担になることが考えられます。保険料の削減方法を社会保険労務士に相談して、社会保険料という無駄な負担を減らし、節約した資金を有効活用することを考えられてはいかがでしょうか? ”