新富裕層
『週刊ダイヤモンド10月14日号』に「日本の富裕層全解剖・新たな富裕層の誕生」という特集が組まれていました。私は、このようなお金持ち、富裕層に大変強い関心を持っています。仕事の関連で相続税対策や非常にうまくいっている事業の経営者の方と接する機会も多いからです。従って、色々なお金持ちや富裕層に関する本も読みます。
結論だけ先に言いますと、週刊ダイヤモンドの特集号で書かれていた内容そのものは、あちこちで最近見られる文章を上手にまとめているという印象でどこかで聞いたり見たりしたことのある話だなということが多かったというのが第一印象です。しかも、紹介されている事例は、とても5億円程度(!)の資産家では買えないような事例中心でした。
①富裕層という言葉が格差の拡大と絡めてまた強くアピールされていることです。野村総研が今年9月に発表した「2005年日本の富裕層」というレポートの中で、1世帯当たりの純金融資産が1億円以上5億円未満の富裕層の世帯が81.3万世帯、5億円以上の財産を持っている世帯が5.2万世帯ということがレポートにあります。そしてこれが2003年よりも大きく増えたということで、新聞等では格差の拡大だというふうな捉え方をされていたためであります。
しかし、野村総研のレポートを見ると次のようになっています。
日本長期信用銀行が破綻した1997から見ると、今まで減り続けてきた1億円以上の財産を持つ層が、2005年株価の回復と共にようやく回復してきたというものが野村総研の結論だったのですが、ただ2003年と比べると2005年は富裕層が増えた、従って格差拡大だと言い方になっていたのです。おかしな話です。
数字だけでいきますと、金融資産1億円以上持っている世帯の数は86.5万千世帯、これに対して世帯総数は4900万世帯ということになっていますから4900万世帯で86.5万世帯を割りますと約1.8%ということになります。つまり、55世帯に1世帯は金融資産を1億円以上持っているという統計数字になるわけです。
これを多いと見るか少ないと見るか見方は色々でしょうが、私の感覚ではこの程度はごく当たり前ではないかなという気がします。
そして、私の本業でいきますと、税務の世界では相続税を払う人はだいたい総資産1億円以上(ただし金融資産だけではなく不動産も多く含んでいます)を持っている方で亡くなられる方の大体5%程度が相続税がかかっています。そういう点から考えてみても金融資産を1億円以上持っている世帯が1.8%というのはこれくらいではないかなという感じがします。
ある本に書いてあったのですが、富裕層のお金の使い方は大きく2つに分かれるそうです。即ち、急に稼いで財産を築いた方は急速にお金を使う、つまり高所得だが金遣いが荒い。一方、長年をかけて貯蓄を重ね富裕層になった方はお金の使い方がゆっくりしている。即ち、所得は驚くほど高くはないが堅実である。あまりお金を使わないという特色がある。
今回、週刊ダイヤモンドで出た話は派手に使う層、つまり新世代富裕層に対してモノをどうやって売り込むのかというマーケティングを中心にしている話でした。富裕層にモノを売ろう、富裕層の方が高い買い物をするので高いモノを売ろうということで色めき立っているという話でした。おもしろいなと思います。
そういう層に向けて、特に金融機関がプライベートバンキングチームなどを作り投資信託等を売っているというような記事も載っていました。
なかなかみんな商売熱心だなと思いますが、私が気に入った言葉をコメントしていたのは前田和彦さん(『現役プライベートバンカーの5年後にお金持ちになる資産運用/フォレスト出版』の著者)で、この方はプライベートバンカーを目指そうという方だそうですが、その方の資産運用の主張は「プロでも金融資産を増やしていくことは難しいのに素人が本業の間にやれると錯覚している人が少なくない。年収3000万円以上の人や金融資産1億円以上の人を新富裕層と呼ぶようですが、1億円を本業で稼いだならその本業に再投資して資金を増やす方が確実ですよ」と。財産を減らさぬようにどのように運用するかということを考えるべきだということが私の心には一番ぴったりしました。
もう1つは、こういう格差の拡大は問題だという評論家の意見もあったのですが、ただ思ったことは、イギリスのサッチャー革命あるいは今の新中国の発展にしてもそこにある考え方は競争を自由にすること、まず経済が発展するときには金持ちがより金持ちになっていくことである。そしてその後、金持ちが巨万の富を使うことによって一般大衆が豊かになっていくのだという考え方でした。その結果、イギリスや中国は豊かな国になりました。アメリカのように格差が広がるから今の日本はけしからんという論調が強いのですが、しかしアメリカの経済が発展していることは確かですし、日本経済が停滞していることもまた事実であります。
結局、経済は発展しなくてもいいから格差が広がらない方がいいという主張なのか、経済を発展させ一般大衆の生活が向上した方がいいという主張なのか、はっきりしないところだと思います。
格差という話でいけば、前のバブルの時の方がよっぽど格差を感じていました。バブル景気の時はいわゆる土地を持っている人が圧倒的に金持ちになっていたのです。とすれば、地方から東京の会社に勤めに出た人は非常につらい思いをしたと思います。働いている人の層と金持ちになっている層とが違っていました。いわゆる土地を持っているもともと農家の人が金持ちになったというのがバブルの時だったとすれば、それよりは今は努力してお金を稼いだ人がお金持ちとなっていますので、前のバブルの時よりもよほどましだというのが私の感覚です。つまり、親から引き継いだ不動産というよりも本人の努力の方が今の時代にはあっているのではないのでしょうか。
もうひとつ面白い話は、財務省が今相続税の増税を消費税の増税と絡めて世論作りを始めていることです。格差は問題だ、想像税を重くして格差訂正をしろという論法です。これを忠実に行った英国は英国病にかかったのですが・・・。
さて、今回の景気回復による新富裕層向けビジネスはどのようになっていくのでしょうか。興味があるところです。