『お金持ちのお金はなぜなくならないの?』
野村総合研究所 宮本弘之 著(メディアファクトリー新書) を読む
ちょっと古い(2010年10月発行)本ですが、『お金持ちのお金はなぜなくならないの?』という本を読みました。野村総研に務めている宮本弘之さんが著書です。
富裕層についての著作が何件かある、野村総研のコンサルティングを行っている人とのことです。
この本は、どうやったらお金持ちになれるかという本ではなく、お金持ちになった人が人を分析してお金持ちの人がどうやって財産を運用しているのかという事に注目して書かれている本です。
まず、お金持ちの定義をしなおしています。一般に、金融機関の統計では金融資産(不動産は除く)1億円~5億円を富裕層と呼び、5億円以上の資産を持っている人を超富裕層と呼ぶとのことです。
大体、5000万世帯ほど日本にはいるのですが、内1億円以上の金融資産を持っている世帯は全体の2%、90.3万世帯との事。内、5億円以上の財産を持っているのが6.1万世帯とされています。(2007年統計)
ただ、この本でお金持ちと言っているのは、働かなくても生活に困らずにずっと暮らしていける人、すなわち5億円以上の金融資産を持っている人としています。
なぜかといいますと、1億円程度の金融資産では働かなくても財産間の金利、配当や運用益及び財産の取り崩しで裕福な生活ができる人という定義をしますと、金融資産1億ではお金持ちと言い切れないことが分かります。
今の時代、2%で運用しても1億円では年500万です。1,000万円ずつ使っていけば無くなることが予想されます。
逆に10億円位あれば、年間1,000万円使っても、2%の運用で利息だけでも年2,000万円入ってきますから、資産は増えていくことになります。とすると、10億円位ないと金融資産だけで一生安泰とは言えないとのことですね。
このような事を考えあわせて、一生安泰に暮らせるお金持ちは5億円以上の純金融資産がある人といえる、としています。
ただし、次のようなことも言っています。
金融資産5億円以上の世帯の統計を取ると、預貯金で運用しているのは23%、約1/4であり残りはリスク資産と呼ばれている、株式や投資信託、外貨預金等に持っているとのことです。ということは、株価の上下によって大きく持っている資産の額が膨らんだり減ったりします。
一方、それ以外の世帯では、預貯金の比率が相当高いということが言われています。
さて、この本のテーマの「お金持ちのお金はなぜなくならないの?」ということに対する回答は最後にふれるとして、その前にお金持ちを3つのパターンに分けています。
①最初からのお金持ち
裕福な家庭に生まれ自分が財産を受け継ぐ事を前提に育ってきた金持ち
②コツコツお金持ち
長い時間をかけて徐々に財産を増やしてきたお金持ち、医者や弁護士等が典型的な例にされています。
③突然のお金持ち
人生のあるタイミングで急にお金を増やしたお金持ち、株式会社を上場させた方等です。
この3つのパターンに分けて、特徴と資産運用の特色を述べているのですが、その中でなるほどなと思ったことがあります。
それは、普通に贅沢をしてもお金は減らないという話です。旅行したり、いい食事をしたり、或いはそれなりに遊んだりしてもそれほど大きな出費にはならない。著者によれば一生で3億円位ではないかとの事です。とすれば、収入などを考えれば、普通の贅沢だけでは財産は減りません。
ただし、東京でいい立地で家を購入すると5億、10億は簡単にかかるとのことです。金融資産もいっぺんに減ってしまいます。
多少の買い物や飲食位では、滅多に破産の期に直面することはありません。それよりも、経済環境の激変、土地や株価の急な下落が大きな要因になります。家を買うのに借金等で買っていると一層大きなことになります。
IPO等上場で金融資産を築いた方は、実際にはなかなか自社株を売れませんので、自社株を担保とした借入金で家を買う。株価が高いうちは問題ないのですが、株価が下がってくると追加担保の要求や借入金の返済を要求される。そうは言っても、自社株は売れない。結果的に土地や自宅を売ろうとしても地下は下落して中々売れない、と大変苦しんだ人が多かった(リーマンショックの直後)との話であります。
ということで、逆に言うと取り返しのつかない失敗をしないよう特に借入金による資産運用について節度を持って考える事が、お金持ちのお金を減らさないための大原則1番目とのこと。
それと、趣味と仕事がリンクしていること。つまり、色々な人脈を持つために一面では贅沢で趣味を持っているが、逆にそういう人脈を持っているとリーマンショック等であっても色々な時にビジネスチャンスや、あるいは良いアドバイザーを持っていることによって助かるとのことであります。
とにかく人脈も仕事を助けてもらうというよりも、信頼できるアドバイスをくれる助言者という事の重要性を述べています。
ちなみに、お金持ちのお金に対する対応でいくと4つに分けています。
①贅沢に見えても、「活きたお金」の使い方をする
②「負のレバレッジ」を避ける(借入金による投資などをさける)
③ピンチをチャンスととらえる
④信頼や堅実さを大切にする
それと、会計事務所をやっている私としては嬉しかったのは相続という事が一番大きなネックになっている、そして安心できる助言者としては相続について教えてくれる税理士や弁護士との人脈が極めて重要だということが何回も繰り返されてきています。
最後になりますが、諸外国の例やアンケート等を引いてお金持ちであることの意味を解いています。
①お金があることは個人の幸福の実感につながる
②お金持ちは人々に夢や希望を与え、世の中を牽引する
③お金持ちの寄付や慈善活動によって、お金が回りにくい分野を支援できる
世界がグローバル化して、自由な行き来が広がっている時代、高い税金、高い福祉で知られている北欧諸国でさえも、
①お金持ちから高い税金を取るというよりもお金持ちもお金持ちでない人も等しく高い税負担をする。
②企業に対してはあまりにも税金を高くしてしまうと、企業そのものが海外に流失してしまう(企業の実質的な分野を子会社等で海外に流失してしまうことも含みます。今日本で現実に起きているのがこの世界です)ので、企業に対しては低税率を推進するという事も紹介しています。
日本はなんとか、ならないのでしょうかね.....。