『アーサーアンダーセン消滅の軌跡』を読む
公認会計士業界の話題の中心は ある大手監査法人の実質的な解散です。
これと同じことが数年前に米国でありました。その当時の5大事務所の一つアーサーアンダーセン事務所の解散です。
アーサーアンダーセン会計事務所は、私が昔勤めていたということもあり、何故あれだけの大事務所で、その当時それなりに高いクオリティ、それに監査に関する厳格さで知られていた事務所があっという間に潰れてしまったのかということについて強い関心があります。
色々な本がアーサーアンダーセンの消滅について出ていますし、また映画「エンロン」というものも評判になっています。
今回は『アーサーアンダーセン消滅の軌跡』という本を紹介します。
この本はアーサーアンダーセンに勤めていた方が書かれているのでどちらかというとアーサーアンダーセンに同情的な見方で書いてあります。しかし、この本に書いてある内容は極めて深刻な問題、すなわち専門職について深刻な問題を述べています。
アーサーアンダーセン会計事務所は税務やコンサルティングなどを提供している大会計事務所でした。全世界に事務所を有し、数万人の人を管理し、一定の品質を提供していくということは極めて大変なことです。
これをアーサーアンダーセン会計事務所は注意深く職員教育を行い人を育てていくことにより実行していくというやり方を保ってきた。その方法はうまくいき、それが成長の原因でもあったわけです。
しかし 約20年前に大きな方針転換を行った。すなわち、監査というものが収益性が悪くなる。行うべき仕事の量の増加に対しててもらえる報酬額が限られている。
監査は監査であるから、客はアーサーアンダーセンから監査を受けたということではなく、監査報告書をもらったということに重きを置く。そうすると安いところと競争が始まる。
こういう中でアーサーアンダーセンが選んだ方策は「売上を増やす」ということでした。貪欲に仕事を求めていく。
監査という仕事については大きな利害が相反することになります。
すなわち、監査は、日本の例で言えば、日本の上場会社からお金をもらうのですが、それでは真の顧客はどこにいるのかというと、それはその上場会社の株主です。
本の中では「顧客の顧客」という言い方をしています。監査の本当の顧客は会社の顧客である株主さんのために仕事をする。ところが、お金を払うのは顧客、監査法人を選ぶのも顧客、すなわち会社である。そこで利害が相反することになります。一定の報酬で満足しておけばいいのであるが、人には報酬を増やしたいという欲望があります。
回りを見ているとコンサルティングという仕事(会計周りの知識をもとに研鑽すれば売れるコンサル業務はそれほど難しくありません)、この場合には顧客、すなわち会社が一番喜べばいいのです。そういうところで、コンサルティングに力を入れるということは、顧客の顧客を喜ばせるのではなく、顧客を喜ばせることになる。従って、顧客の顧客なのか、顧客を喜ばせることなのかという方向性に違いが生じ、これが結果的には99%のメンバーは守り続けていた仕事の品質を1%の者が崩したということがあります。
アンダーセンの名誉のために述べておきますと裁判で有罪になったから解散したのではなく その前に監査の信頼性に不安が広がって顧客離れがおきてしまって解散に追い込まれました。裁判は最終的には米国最高裁で無罪になりました。
一体どのように考えればいいのか、監査の事務所で言いますと、顧客の顧客はだれかということになります。我々がお金をもらっているのは誰か?お客様です。とすれば、誰のために働くべきか?これは顧客の顧客のためでしょう。ただ、顧客のために働くのであればまた限界があるのだということになるのでしょうか。
一方コンサルティングの仕事はおかけを払う顧客とサービスを受ける顧客とが一致しています。最近会計士もコンサル業界へ転出する人が多いとの話です。
難しい問題を提議しています。