診療所の理事長が退職金をもらうとのことに関連して税金上 注意することを報告書にまとめたが。。結局この報告書は使わないことになった。
せっかく作ったことだし このまましておくとどこかに消えてしまうので 記録のためにブログに載せておきます。
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一人医師医療法人の理事長に対する退職金の税務
貴殿より医療法人の理事長に対する退職金の税務について質問をお受け致しました。この件につきまして、次項以下のとおり回答致します。
なお、この回答は一般的な事項を前提としておりますので、それぞれの個別事例にかかわる特殊事項があった場合には、その旨顧問の会計事務所に再確認していただきますようお願い申し上げます。
Ⅰ.役員退職金の原則的取扱い
役員の退職給与とは、役員に対して退職という事実により支払われる一切の給与を言い、退職給与規程に基づいて支給されるものかどうか、及びその支出の名義がどのようになっているかは問わない。
役員退職金は、その退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その他内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額は法人の法人税法上の必要経費(損金)となる。一方、相当とされる金額を超える場合におけるその超える部分の金額は支払う法人の側において法人の損金(必要経費)とはならない。
一方、その支払いが役員の退職に基づく場合には、過大かどうかにかかわらず役員の所得税の計算上は退職金として扱われる。
また、その役員の側において、役員の退職金という名目で受領したにせよ、事実上役員としての退職の事実がない場合には法人の側においては退職金とならず、金額の如何を問わず役員賞与として法人の必要経費(損金)とはならない。また、その金額を受領した役員の側にとっては給与所得として課税されることとなる。
Ⅱ.税務当局とのトラブル事項
税務当局とのトラブル事項としては、二つの事実に分けて考察する必要がある。
1. 本当に退職したのかという役員としての地位の退職という事実関係の認定
2. 役員としての退職金が高額・過大なものではないかという認定
1.の退職したのかどうかというその事実認定は、その支払われた金額の全額の損金不算入、並びに受け取った個人の側での所得税法上の所得区分の問題に対する話であり、影響が極めて大きい。
一方、退職金として過大かどうか、相当な金額以内であるかという問題は過大部分のみが損金不算入とされ、適正部分は支払った法人の損金算入とされる。また、退職の事実に基づく退職金であれば、過大退職金であろうともその受領した役員の側においては退職所得として扱われることとなる。
Ⅲ.退職の事実の認定
医療法人の理事長の場合、退職の事実の認定には微妙な要素が絡む場合がある。即ち、完全に医療法人より退任し、医療法人に全く関与しない場合には問題はないのであるが、法人税法基本通達9-2-23(役員の分掌変更等の場合の退職給与)〈別紙参照〉に該当するかどうかという部分的な退職の場合の取扱いである。
医療法人の理事長においては、次のような役割を果たしている。
医療法人の社員
医療法人の理事
医療法人の理事長
病医院の院長
病医院の医師
通常、一人医師医療法人の場合には、理事長が院長を兼任する。また、その医療法人に勤務する医師としての役割もある。このような場合で、その医療法人の理事・理事長を退任し、医師としての活動も全くしない、即ち無給の医療法人とは全く関係がなくなる場合には、当然退職という事実認定は容易に可能なのである。
しかしながら、一人医師医療法人の場合、理事長としての地位は第三者に譲るのであるが、一医師として一理事として継続して医療活動を継続する場合がある。このような場合、どこまで退職と言えるのかということについては、税務当局とのトラブルのもとになる。少なくとも基本通達に示された事実関係、①常勤役員が非常勤役員となる、②事実上経営の意思決定に参加しない、③分掌変更後の報酬が激減(概ね50%以上の減少)したこと、の三つの条件を満たすことが必要である。
一般的に診療所においてはなかなかこの区別が困難なため、著しく給与が減少し、且つ、勤務の状況も週に1日ないしは2日程度というあくまでも非常勤ということが明白である場合を除き、税務上トラブルをもたらしやすい。第三者の非常勤医師の日当×週1~2日分という金額で、給与も非常勤医師の日当の水準にあわせる必要がある。そうでなければ、役員としての役割を果たしているのではないかなどと推測されがちである。また、重要な経営の意思決定に関与していれば問題とされる。
理事長としての商業登記の変更並びに保健所への届出は当然である。
医師としての勤務を継続したいという場合が多いので、本当に退職したのかという事実認定の争いについては十二分に注意されたい。
Ⅳ.過大役員退職金とみなされる部分と相当と認められる部分
退職金については、支払った法人の側で過大な部分については損金不算入とされ、相当な部分と認められる部分については損金算入されるという区分になっている。この件については、税務上の裁判事例が多い。一般的には、退職時の月額給与×役員としての勤続年数×功績倍率を用いて算定されるとしており、創業者においては概ね3倍以下である場合には問題にされないという裁判事例が多い。
そうは言っても、役員退職金を支払った場合、税務当局はまずほとんどのケースで税務調査を行い、その役員に対する退職金の妥当性を検討するとされている。
退職時の役員報酬が長年に渡り支払われた金額よりも退職時直前に急に引き上げたものである場合には問題視される。また、役員退職金の支払いに対して過去相当の利益が計上されてきたかどうかということ、即ち、相当の月々の役員報酬を支払った後に対しても相応の利益が計上されていたかどうかも判定要素の一つとされている。
≪参考≫
法人税基本通達9-2-23(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際し、その役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。(昭54直法2-31改正)
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第4号(使用人兼務役員とされない役員)に掲げる要件の全てを満たしている者を除く)になったこと。
(3) 分掌変更等の後における報酬が激減(概ね50%以上の減少)したこと。