最近のニュースの中でとても驚いた話は、明治安田生命の保険金不払事件です。新聞報道で事件のあらましは知っておりました。要は、意図的に生命保険金を支払わなかったというか生命保険契約の場合、生命保険詐欺を防ぐため、特定の場合は保険金を支払わないということが保険約款にも書いてあります。この保険約款を利用して意図的に保険金を支払わなかった(予定していた死亡率が実際には達成されなかったという意味では、この利益を死差益というのですが、この死差益を大きく伸ばそうということを会社自身の目的として掲げていた)という事件です。それ以上の事情を私は知らなかったのですが、機会があってその件に関して詳しく統計的に分析した情報誌を入手し読んでみました。呆れることが書いてあります。
事件の背景としては明治生命と安田生命が合併する前に業績を伸ばそうという背景があった平成13年度が一番のピークであったこと、安田生命側ではなく保険の不払いは明治生命が中心にやったこと、その明治生命の中でも特定の役員の方が恐らく実績作りのために旗を振って頑張ったこと、そのことは統計上も表れていることなどです。
明治生命の死亡に伴う保険金の支払いは平成10年度から平成12年度にかけてほぼ28,000件くらいであったのが平成13年度は突然25,802件と件数にして7.9%減、金額でも7.6%減になっているということです。もちろん、保険件数や死亡率など色々と変わりますからこの数値が大きいのかどうかはわかりませんが、他の保険会社の日本生命、住友生命、第一生命が概ね2%前後の減少に比べて7.9%減というのは突出していると言わざるを得ません。
この7.9%減が本当の意味で保険件数の減少などによったのが仮に2%としても5%は不正な本来払うべき金額を払わなかった、つまり20件に1件は払うべき保険金を払わなかったということです。驚くべき高率での不払いと言えます。
堂々と会社の方針として支払査定強化による死差収益向上を挙げてあったこと自体が単に一常務の方針というよりも会社そのものの方針であったことは明らかでしょう。明治安田生命のトップグループの役員が責任をとって辞任ということですが、安田生命側がそれは明治生命側の事件であって何故安田生命出身の役員まで辞めなければならないのかといった気持ちも感情的にはわかる話です。
その具体的な手口は色々とあるようですが、個人保険で、且つ災害割増が付いていた保険が狙い打ちに遭っていたようです。単なる死亡保険は死亡すれば自動的に支払われるケースが多いのですが、災害保険付きの場合は泥酔状態での運転や自殺、被保険者や受取人の故意又は重大な過失による場合などは支払われないとされています。故意又は重大な過失というと、選択の幅が広いように見えますが、これを意図的に極めて不当に解釈したとされています。何故支払わないのかとクレームが来た場合、一度だけなら支払うな、二度来た場合で訴訟に発展しそうなものについては支払することというような社内マニュアルがあったことも報道されていますが、驚くべきモラルの欠陥です。実際保険金を請求しても、「飲酒が約款に記載されているような免責事由にあたるため保険金は支払いません」と言われると多くの契約者は保険会社が言うことだから恐らく間違いないだろうと、不満は残っても保険会社の決定を疑うことすらしなかったのではないか、あるいは不審に思っても具体的な対応の仕方すらわからずに、保険会社の言いなりになり、うやむやになった例も少なくないのではないかとのことであります。
飲酒については、泥酔状態、酒気帯び運転いずれもどの程度の酒気帯び運転なのか、例えば「事故前に居酒屋で仲間とビールを飲んでいた」という証言であっても「泥酔状態で運転していた」のか、「同じ居酒屋にいただけで最初の乾杯の一杯だけであとはノンアルコール飲料を飲んでいた」のかの判断については保険会社の自由裁量で極めて厳しく判定するようにしていたとのことであります。
振り返ってみて、私自身がどういう経過で保険に入ったのかを改めて思い出してみました。独身時代、そして結婚して子供が産まれるまでは保険には入っていませんでした。長男が生まれ、自分が死んだときのことを思い勤務先の団体保険契約に加入しました。5,000万円の掛け捨て保険でした。その後独立したときに、会社を退職の際に当然団体保険契約は解除になりますので、友人から勧められ保険料が安いものということで終身保険1,000万円、プラス定期預金4,000万円で病死の場合は5,000万円プラス災害保険割増し特約で5,000万円、交通事故になった場合1億円という保険に入りました。当時は私も独立したてで若かったので病気で死亡する確率よりも事故で死亡する確率の方が高いと思っていましたので1億円という保険に加入しました。その後、子供が産まれる度に同じような保険に入ってきました。最初は掛捨て部分が中心、次に掛捨てでない養老保険が中心でした。保険会社を選ぶときは、今どうこうというのでなく将来10年後、20年後に潰れていたら話にならないので業績のいい会社がいいなと思って加入したことだけは記憶しています。
そして、最近は保険の話になると、どういう保険に入るかということも大切ですが、同時に10年先、20年先に保険会社が潰れていたら仕方ないですよね、というような話をするようになりました。今後は、保険金を支払うことについて誠意のある会社かどうかということも大切になるでしょう。
損害保険の話ですが、ある大きな災害の時に保険会社によって支払いぶりが良かったり、悪かったりがあったという話も聞いたことがあります。
それにしても今回の明治安田生命の話は呆れてものも言えないとしか言いようがありません。では、保険者としてどうすればいいのかということについてはわかりませんが、その契約の窓口である保険会社の代理店(あくまでも保険会社の代理店であって保険契約者の利害を守る代表者ではないのですが)が、頑張って本社と交渉するしかないのではないのでしょうか。そして、保険契約者としては本当に保険金が出ないケースなのかどうかをしつこく保険会社と交渉する以外にないのかな、自己責任としか思われません。
保険というものは当たらない方がいい宝くじと言われてから久しいのですが、万一当たった場合に保険金が下りないというのは社会のインフラとしての保険会社の存在意義に関わる話です。
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