著者 長尾和宏
ブックマン社
この本の作者は、尼崎の町医者として多くの終末期患者と接してこられた方で、終末期を平穏に迎えるためにはどうすればよいかというのがテーマです。
人生の最期を病院で迎えることと自宅で迎えることの意味、そして延命治療を行うということがどいういうことかなどについて、町医者としての経験をもとに書かれています。
厚生労働省の調査によると、1970年代後半までは自宅で亡くなる人の方が多かったそうですが、今では病院で亡くなる人が8割です。
しかし、現状では病院での平穏死(平穏な最期を迎えること)は難しいようです。なぜなら、病院の医師にとって死は敗北であり、延命が至上命題だからです。だから、できる限りの延命治療を施すことになります。
一方、作者が見てきたなかでは、在宅療養された方は、比較的、最期まで尊厳ある「生」を楽しめるケースが多かったようです。
以下、「平穏死」の10の条件を挙げると、
①平穏死できない現実を知る・・・病院に入院して延命治療を始めてしまうと、本人や家族が希望しても途中で中止することが困難なのが現実。
②看取りの実績がある在宅医を探す・・・予定時間に医師が訪問する「訪問診療」だけでなく、時間外の診察である「往診」をしてくれる、そして「相性」の良い在宅医が望ましい。
③勇気を出して葬儀屋さんと話してみる・・・ご家族があらかじめ死後について話し合い、死への免疫をつけておく。
④平穏死させてくれる施設を選ぶ・・・病院や自宅だけでなく、施設での看取りについても検討。
⑤年金が多い人こそ、リビング・ウィルを表明する・・・自分が健全なうちに自分自身の延命治療に関する意思を表明。
⑥転倒→骨折→寝たきりを予防する・・・寝たきりになると認知症となる。
⑦救急車を呼ぶ意味を考える・・・救急車を呼ぶと、蘇生処置から延命治療へのフルコースとなる。
⑧脱水は友。胸水・腹水は安易に抜いてはいけない・・・平穏死に向かう場合には、脱水状態は体全体が省エネモードになり、悪いとは限らない。
しばらく食べたり飲んだりしなければ胸水・腹水は減っていく。
⑨24時間ルールを誤解しない。自宅で死んでも警察沙汰にはならない・・・
24時間以内に主治医が診ていなくても、元々の病気で亡くなったことが明らかであれば警察を呼ぶ必要はなく、主治医が往診して死亡診断書をかくことができる。
⑩緩和医療の恩恵にあずかる・・・痛みを軽減させるためには、麻薬の量を適度に増やしていくこともときには必要。
また、胃ろうについても、プラス面とマイナス面があるので、深く考えてから造設するべきとのことです。
在宅療養や在宅で死ぬことは、家族への負担など難しい点もあるが、実際に作者が見てきた在宅での看取りは、ほとんど全て「平穏死」だったそうです。
今後の医療の行方がどうなるかわかりませんが、終末期医療について、いろいろと考えさせられる内容でした。
(紹介者:諸岡)
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