相続税の特例
~ 後継者が相続する同族会社株式の評価80%軽減制度は導入されるか? ~
中小企業のオーナーに相続が発生したとき想像財産たるにオーナー企業の株式の評価を80%軽減するという記事が日経新聞の一面に掲載されました。
ポイントは2つあります。1つは本当に導入されるのか。2つ目は導入されるとすればどういう問題が生じるのか。
この背景には次のような問題意識があります。
中小企業庁は、『中小企業白書』の中で「後継者問題」というものをひとつの大きなテーマとしてあげてきています。2005年版では「中小企業経営者の後継者の確保が課題である(親の事業に将来性、魅力を感じられないというのが後継者がいない一番の原因でした)」。2006年版では「中小企業後継者不在問題」を取り上げ、且つ、「事業承継問題」ということをあげています。この場合、適当な候補がいない場合には従業員やM&Aというようなことも問題提起をしています。つまり、新規開業が非常に少ない時代だ、今ある企業が閉鎖していくことを防ぐべきだ、それが働く人の雇用の確保につながるのだというストーリーの中での道筋です。従って、そこでは「事業承継問題」と「M&A」というものが2つの課題として挙げられています。
そして、2007年版では真正面から「中小企業の事業承継問題」を取り上げています。
今回は、社長個人財産を担保として提供していることや個人保証への問題、それと相続税負担額の問題を取り上げています。株式会社のうち、17.9%の企業経営者には5000万円以上の相続税負担額が予想されているとされています。
既に昨年の税制改正の論議のときから言われていることですが、中小企業庁としては中小企業の株式について相続税の軽減措置をつくりたい。なぜかと言えば、農業を継続する人は農地を20年間営農すればその農地については相続税が免除されます。同じような制度を未上場株式についても導入したい。まず第一歩として、自分が経営している未上場会社の株式の評価のうち、10%は相続税評価を軽減するという制度が平成14年に導入されています。これを拡大していきたいという話です。ご承知のように、未上場会社の評価を8割まで安くしようというのが日経新聞に公表された案であります。
ただし、同じことは参議院選挙前の6月に自由民主党の事業承継検討小委員会で8割評価減を打ち出していますし、さらに相続争いの問題を防止するための遺留分の制限等を打ち出していました。
参議院選挙が自民党の敗退になりましたので、どのように動くのか興味を持っていましたが、選挙後も方針は変わっていないというのが日経新聞の記事でしょう。
同族会社株式を相続した後継者は相続後一定期間は相続株式を保有し続け、且つ、雇用の確保をすれば80%の評価減が受けられる。ただし、5年ないし7年は事業継続の義務があり、社員の8割以上の雇用確保義務もあります。且つ、また株式財産保全のための財産管理会社などは除外されるとされています。
多分、この改正案は相続対策を考えるときに色々と考える事項が増えます。
最近の相続対策の基本は会社の合併や分割あるいは従業員持株会などにより、社長の所有する株式の評価額を下げ、それを相続時精算課税制度を活用し、早めに後継者に移してしまうというパターンが一般的です。
そして、社長が若いケースでは、株式移転制度を活用して持株会社を作り、株価の上昇を抑えるパターンが主流です。
仮に、この8割軽減措置というものが相続時精算課税制度を利用した生前の株式の贈与を除外するとか、持株会社は対象外とかいうことになったりしますと大きな問題が生じます。
中小企業庁は、本気でこの軽減制度の導入を狙っているとのことです。嫌な言い方ですが、これは中小企業庁の天下り先の確保(事業承継支援センターという窓口の設置)や、あるいは事業承継計画について中小企業庁の主務官庁である経済産業省の承認を受けなければならないという条件がつくのではないかという噂もあります。
今後、政治的にはどのような形になるのか。つまり、相続税が高い方(良い企業を経営されている方、財産をしっかり持っている方)について軽減措置をつくるということは、消費税の引き上げというものが話題となっている現状において、参議院の状況も含め、どのような形になるのか興味が持たれます。というか逆に、進んでいた事業承継対策が凍結されてしまうのではないかということも考えられます。
いずれにしても中小企業庁は正式に事業承継についてに税制の改正を求めています。
導入されるかどうか 正式に確定するのが12月中旬。さてどうなるでしょうか?相続対策を行っている私のような会計事務所では目が離せない話題です。
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