会社を経営されている方は銀行とのおつきあいが欠かせません。そして、銀行から借入をしよう、当座預金勘定を開こうというときに必ず要求されるのが、銀行取引約款という書類です。それには会社が銀行取引をするときの約束事が書かれているだけでなく、保証人も要求され、通常その会社の代表取締役が保証人に入る形になっています。その銀行取引約款の中に「包括根保証」という規定が入っていることが従来問題にされていました。「保証人は銀行に対して現在及び将来負担するいっさいの債務について、債務者と連帯して保証債務を負います。」つまり、現在の借入金等の保証だけでなく、その会社が将来発生するであろう借入金等の債務を限度額なく、且つ期限の定めなく、青天井で一切合切保証するのです。これが「包括根保証」と言います。
その方が会社の経営者である限りは自分の会社が借入金をいくら背負っていても問題がない。というか、会社の借入を追加するかどうかは社長の判断ですので・・・。ところが、その経営者がやがて何らかの事情でその会社から身を引いた、しかし、保証人を外すと次の社長と同意していたとしても保証人を外すためには銀行の同意が必要です。従って、銀行が同意した上で包括根保証からはずれていない限り、一旦契約すればその主たる債務者(会社)が継続取引をして生じる新たな借入金等に対しても保証し続けるということになります。またその保証債務は相続の場合、その子供にも引き継がれていく(銀行が同意すれば外してくれる)という形になっています。社長をしていたときにした10年前の包括根保証によって現在は関係なくなった会社が新たに借り入れた借入についても、倒産したら銀行から保証債務の請求をされるということです。
私の経験では、兄弟で経営していた会社がありました。兄弟ということで二人とも会社の銀行借入金の包括根保証人になっていました。 やがて、後継者の問題で弟さんが会社を飛び出す形で よその県にいき新しい会社を作った。数年後元の会社の社長は兄さんの子供が経営していたが、あえなく倒産となった。そのとき 銀行さんは弟さんのところに包括根保証を覚えてますかといって数億円のお金を取りに来られました。びっくりするばかりでした。
いかにも不当ではないかということで過去裁判が多数起こっていますが、結果的にはその条項自体は有効とされ、裁判所は限定的な解釈をして救済をしているというのが現状でした。裁判はやってみないと結論はわからない。裁判には何年かの月日がかかるのでやっと救済できたとしてもその条項自体はずっと残り、被害は反復継続しているというのが過去の経験事例でした。
とにかく包括根保証というのは従来から問題にされてきました。金融機関にとっては都合のいい保証契約です。また、商工ファンド、商工ローン等の問題のときにもこの包括根保証のことで問題視されました。
尚、根保証とは、「何月何日何円の借入」のように、保証する債務を特定するのでなく、「すべての銀行取引」のように不特定の債務を保証対象とするものです。ですから単純な住宅ローンのような特定の借入(何月何日付借入)のような単純保証とは違いますのでご注意下さい。
景気悪化で中小企業の倒産が相次ぎました。この包括根保証のために破産や自殺に追い込まれる経営者や保証人が続出しました。「一切合切はあまりにひどい」ということで民法改正が4月1日よりなされました。
この包括根保証の禁止や無効とする扱いが、民法の改正(今年の4月1日より施行)という形でなされています。
① 包括根保証は禁止
保証金額もしくは保証期間の制限がないもの
② 今後は、保証人が保証する金額には必ず上限を定める。且つ、一定期間(最大5年間)に発生したものに限られる。
③ 例えば、期間5年で上限1億円の保証とすれば、
5年目に残っている債務が
3億円のケース:1億円のみ保証、元本が確定
8000万円のケース:8000万円のみ保証、元本が確定
④ 民法改正の趣旨は、保証人に過酷な保証責任を負わせないことです。
ある経営者の方と話をしていたら、できるだけ保証はしたくないとの率直な感想をおっしゃっていました。企業が対銀行に対して力関係が強いとき、即ち会社が儲かって困っているときで、銀行の方からお金を貸したいと言ってくるような場合に保証人にならずに済むようなやり方がないのか交渉してみるというのも一つのやり方だと思います。
まずはこのように制度が変わっているということにご注意いただきたいと思います。