映画『エンロン』を観る
確定申告が終わってほっとしたので、レンタルビデオ店に行ってみると『エンロン』のDVDがありました。エンロンという会社は、米国の電力業界で彗星のように急成長した会社ですが、一時はアメリカ10大企業に入っていた会社でしたが、2002年あっという間に倒産してしまい、その関係で大会計事務所であったアーサーアンダーセンも破綻しました。いわゆる金融技術(SPC)を用いた粉飾決算であり、その粉飾決算を監査していたアーサーアンダーセンが見抜けなかったということが問題とされました。
同じ会計の業界にいる者としてアーサーアンダーセンの破綻は大変興味があることであり、なぜ厳格で技術レベルも高く、且つ相当な権威も会ったアーサーアンダーセンという大会計事務所が破綻したのかという関係の本は色々と読んでいたので、ある程度の知識はあったのですが、そのような知識はあくまでも会計事務所側からみたエンロン、あるいは会計事務所側の破綻の背景にあったエンロンという企業というものでした。
ところが、この映画はドキュメンタリーで、役者ではなく、それぞれのエンロンの過去の記録ビデオや当時のエンロン関係者へのインタビュー、さらには議会の公聴会等でエンロンの主要幹部の証言の場面等を中心として記録されている映画でした。
会計事務所などはほんのちょっとした役割で、あまり触れられていません。そこに出てくるのはお金に憑かれた人々(エンロンのトップ経営者やトレーダーなど)の姿です。エンロンのある経理責任者は別会社(SPC)をつくる中で自らの懐に45億円の利益をあげたり、あるいは子会社の幹部が不当な行為をしてお金を横領しているということを会計事務所から指摘されても経営幹部は金を稼げる間は黙認し働かせ続ける。大きな損失を出すようになると解雇するという流れでした。
また、電力の先物取引を行うのですが、この先物取引で儲かるためにカリフォルニア州の停電を意図的に引き起こすということもやっていました。とても欲望につられた行動です。そして、稼ぐお金も生半可ではありません。個人の報酬か2億ドル、3億ドルのレベルです。要はお金に憑かれている会社と言えるでしょう。
そういえば、それに関連していたアーサーアンダーセンが倒産してしまったことについての色々な本の中で、結局優秀な人材がコンサルティング会社や金融業界に流れていってしまう。報酬が全然違う。真面目な人の集まりである会計士といえども焦りがある。その焦りが成長志向へ向かったという場面がありましたが、生半可な報酬の差ではありません。
会計に触れられていたのは、マーク・トゥ・マーケット時価法という会計基準を採用することをSECやアーサーアンダーセンが認めたことが大きな要因であるというような言い方になっていました。
例えば、上場会社の株式のような株式市場がある世界での時価法に対し、今問題になっているような、例えばサブプライムローン、それをバックにして発行された各種金融商品(債権の流動化というやつですね)については、1ヶ所に集中している資料があるわけではないので結局業者間売買になっている。
今、サブプライムローンの問題が大騒ぎされているのは、実際に各人が持っている金融商品がいくらの値段がするのかわからない、取引そのものがない、ということです。時価法、いわゆる公正な市場がない世界において、時価法を採用するということは、要はその時価がいくらであるという論理的らしい根拠さえ適正に作ればいくらでも値段を決めることができる。これが大きな欠陥だ。これを使ってエンロンは大変儲かっているという姿をマスコミを通じて映し出し、それによって株価を上昇させ続けた。キャッシュフローの世界では、本当に儲かっていないわけですからうまくまわらないのですが、そのキャッシュフローの世界はSPCを使ってエンロンが抱えている借入金を別会社にし、且つ、貸借対照表から消してしまうというテクニックを使っているわけです。
そのようなお金に憑かれているエンロンの人々にたいして、アーサーアンダーセンのヒューストン事務所、アーサーアンダーセンの監査担当の責任者ダンカンなどの真面目な会計士では全然太刀打ちできなかったのだろうという感じがしました。非常に会計士の仕事やまわりの状況を考えるときのことについて色々と考えさせられるドキュメンタリー映画でした。