以前にも同じような話題を取り上げたのですが 改めて紹介します。最近の税務トラブルの話です。
最近、税務署を退任された方から教えてもらった話です。
「租税法律主義」と言って、税金は税法に従って課税されるものであるというのが建前ですが、実際は違います。税務当局は税法になんと書いてあろうと、課税が公平でなければならないという考え方が根本にあります。これは課税しないとおかしいという考え方(正義感?)で行動する。従って、私の目から見れば 税法の条文解釈を無理に曲げてでも課税をしていく。
これが最近目立ってきています。
課税処分とは、納税者が納得しない事項について一方的に税金を払えという税務的な処理のことを言います。
わかりやすく言えば、税務調査で、
税務当局 「○○は税法違反だから修正申告して下さい。」
納税者 「納得できない。修正申告しない。」
税務当局 「では、課税処分します。更正処分書を送りますから自主的に納税して下さいね。ああ、一言付け加えておきますが、税金を払わないと一方的に預金とか差し押さえますので・・・。」
納税者 「・・・。」
ちなみに納税者が納得した上で行う処分での税金漏れの徴収を修正申告と言います。
私の感覚では、納税者は納得はしていないけれども多少の税金ですむのであれば、これ以上税務調査を受けるのが嫌だから、と言って修正申告するケースもあるようです。
昔、関東軍(政府の言うことを聞かずに中国での戦争を拡大していった)と言い、今は○○国税局と言われています。
最近新聞によく載るケースでは、国内企業と海外企業との間での移転価格税制の適用による何百億円かの課税処分というのがあります。
日本の会社とその日本の海外子会社との輸出入取引について、その取引価格が妥当かということで問題になっています。つまり輸出企業で言えば、日本が海外子会社に売る値段を下げれば日本での利益が減り、日本の税金が減り、一方、海外子会社の利益が増え、税金が増える。ただし、日本の法人税の税率は海外に比べると基本的に高い。海外の税率の方が低いので、親会社・子会社の連結ベースでの税金の負担は減ります。このことは、企業の経営活動とすれば合理的な活動になるのですが、日本の国と海外の国との間で言えば税金をどちらが取り合うのかという税金のぶんどり合戦の話になるわけです。これは海外との取引価格が間違っているというわけですので、日本で税金が増えれば、海外の税金が減るのですが、それでは海外の国が納得できないわけです。
非常に大きな企業ですので大きな税額の問題になります。当然、大企業ですから素直には納得できない。
担当社員は出世の目がなくなるかもしれない。担当役員は会社に損害を与えたのか?
納得すれば(自分から間違っていると認めれば)株主代表訴訟の対象になるので裁判で決着をつけよう、課税処分してくれ、という話になるわけです。
問題なのは、このようなケースが国内企業同士の取引でも拡がってきています。
日本国内の企業とその企業の日本国内にある関係会社との取引について取引価格は妥当なのか、取引条件は妥当なのかどうかなどです。
行き過ぎも多いようです。なぜなら、親子間でやる取引についてはなかなか値段の決め方が難しいからです。例えば、親会社が持っている特許権を子会社に使わせる。さて、いくらが妥当なのでしょうか。親会社が子会社の経営支援を無利息貸付でする。これは本当に妥当なのでしょうか。親会社が子会社の経営指導料をとる。これは妥当な価格なのでしょうか。税務当局はすぐ利益操作だと考えます。
行き過ぎが多いというのがOBの方の見方で、これは税務調査でもよく経験していることです。
このようになってきたのは、そのOB(当然ながら高年齢層)の方の意見では、以前は税務職員は高卒中心であり、良い意味での職人気質があった。
ところが、ここ20年ほどの税務職員の中心は大卒の世代に変わってきた。彼らは大学時代にアルバイトの経験がたくさんある。アルバイトというのは飲食業等が多い。売上等のごまかしをお店がやっていることを経験してきている。それに加え、いわゆるマニュアル世代である。
結果的に、最初からお金をごまかしているだろうという先入観念があり、また調査マニュアルに従って機械的に、単純に調査・処分を行ってきている。マニュアルには書ききれない様々な事象、取引の背景があるということまでは考えが及ばない。
また、税務署が課税処分するときには、当然ながら税務署長あるいは国税局の審査担当の承認が必要なわけですが、その方々の状況が悪化している。
最近声高に叫ばれている公務員倫理法が悪くはたらいている。公務員倫理法とは、民間の方々との不当な交流・接待により公務員が不正なことをしないように導入された法律ですが、あまりにも杓子定規に適用され(税務職員は真面目な人が多い)、最新の民間企業の情報が入らないかたちになっている。要は、民間の人とお酒の接待・供応を受けてはならないのですが、誤解されないように自分でお金を払って割り勘で飲むということさえも基本的にはしません。
よく税務調査に来た方々に会社の方でお昼にお弁当をとっていると、その代金を税務当局の方が払われるのを経験されていることからも税務当局の方は生真面目な方が多いということがおわかりになるでしょう。
世の中の取引には微妙なニュアンスというものがありますが、そのニュアンスがうまく伝わっていないというのがOBの方の話でした。
従って、結論では、そのOBの方曰く、「今後とも税務当局と納税者のトラブルは増えていきますよ」という全く有難くない話でした。